神道と神社(2)

伝承・伝統・文化

前回の神道と神社(1)では、分社の数が多い順に3神社に触れさせていただきました。
主祭神が記紀(古事記、日本書紀)に名前の出てくる、神話となっている神様です。

その他の日本の神社の主祭神の多くも、神話となっている神々ですが、そのほかに記紀以降に、生前の人望、実績により神様として祀られるようになった人たちを祀る神社も存在します。

主祭神となったのは菅原道真、北条高時、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、吉田松陰、…など、そのほかにも多くの先人が祀られています。

その中から、今回は分社数の多い2つに触れてみたいと思います。

1.天神さま(分社数:10544)

太宰府天満宮

主祭神は菅原道真公です。
天神さまというのは元々、地元に現れた地祇(くにつかみ)に対する高天原におられる天神(あまつかみ)のことを指していましたが、平安時代に菅原道真公を祀ったことがきっかけで天満天神を天神さまと呼ぶようになりました。

日本では縄文時代から人が亡くなると魂が霊として肉体を離れるという考え方があり、御霊(みたま)が人々に様々な災いを起こすとされ、政治的に失脚した者や、戦乱での敗北者などの霊が、その相手や敵に災いをもたらすとされ、平安時代に御霊信仰として定着しました。そうした形での神は菅原道真公のほかに、平将門、崇徳天皇が代表的です。

道真は、中級貴族の学者の家柄に生まれたのですが、権勢を誇る藤原氏に対抗させるため宇多天皇に取り立てられ、右大臣にまで昇りつめました。しかし、その異例の出世が貴族たちの反発を呼び、チャンスと見たライバルの藤原時平の策謀によって九州の大宰府へ道真を左遷されてしまいます。そして2年後、無念の涙をのみながら道真は亡くなりました。

そして、その5年後道真の失脚、左遷に関与した道真の弟子が雷に打たれ死亡、さらに翌年にはその首謀者も死亡、その後も洪水、干ばつ、伝染病や親王が若くして亡くなるなどの不幸が続きました。そしてとうとう、御所にまで落雷があり大納言がなくなるということまで起こりました。

そうした不幸が続いたことにより道真を雷を操る雷神として天満宮で祀ることになったのです。
その後、道真が学問に優れた人物であったことから、学問の神さまとして信仰されるようになりました。
雷神という怖い神さまのままでは分社数は増えなかったと思われますが、学問の神となったことで分社が広がったのです。

生前の実績により神さまとなった人物の中では菅原道真公を祀る天満宮が圧倒的に広く信仰を集めました。その次はというと、二けた少ないのです。

2.権現さま(分社数:100、ただし江戸時代は300)

日光東照宮
久能山東照宮

主祭神は徳川家康公です。東照大権現という神号は後水尾天皇から贈られました。

晩年、将軍を秀忠に譲り駿府城に移り大御所として過ごしていた家康は駿府で亡くなり、久能山に埋葬されました。家康は「遺体は駿河の久能山に埋葬、江戸の増上寺で葬儀を行い、三河の大樹寺には位牌を納め、一周忌が過ぎてから、日光山に小屋を建てて勧請(神仏が降臨するよう請うこと)せよ。そして、神に祀られることによって八州(日本)の鎮守(守護神)になろう」と遺言しました。

幕府が遺言を守り、日本の鎮守としたことで、御三家、その他の大名、寺も東照宮を建立していき、江戸時代には300以上の東照宮ができました。

後水尾天皇は喜んで神号を贈ったわけではないようですし、幕府側には、天皇を利用して家康を神さまと認定してもらい権威を高めたかったし、大名たちは幕府に忖度したという面もあると思います。ですが、江戸幕府によって200年以上太平の世が保たれたのも事実です。

3.日本人の宗教観と神道

ここまで、分社数という切り口でその数が多い神社について触れてきました。しかし、神社の種類は他にも氏神さま、熊野(おくまん)さま、山王さま、浅間さま、諏訪さま、愛宕さま、秋葉さま…、とたくさんあります。それなのに、日本人は「あなたの宗教は?」と質問されたとき「自分は無宗教だ」と答える人が多いのが現状です。

これは、日本ではあらゆる宗教が共存しているからです。八百万の神々を崇拝する神道には、もともと包容性があり、客人(まれびと)を大切にして、異文化との接触による文化変容を可能にする素地がありました。これを人間の身体にたとえてみると、日本人は自分たちの作った食物のほかに、外国から入ってくる食材をもとにして新しい食物を食べ、それらを消化して、栄養源にしている、と言うことです。

神社の氏子であり、お寺の檀家であり、新宗教の会員でもあるということが何の不思議もなく行われているので、「私の宗教はこれです」と答えが出ません。あなたの宗教は?という質問にはどれか一つの宗教を答えるという暗黙の了解があるので「自分は無宗教だ」と答えるのが無難だと考える人が多いのだと思います。さらに最近では「カルト」と呼ばれる宗教団体がしばしば社会問題を引き起こしていることから、宗教≒カルトと連想してしまう人も多くなっていることも影響しているようです。

しかし、神道は初詣、節分、節句、夏祭り、お箸の使用、七五三、歳祝い、地鎮祭…など、日本人の生活習慣の中に根付き、最も大きな影響を与えています。