静岡県浜松市天竜区石神に佇む芳光堂の物語

伝承・伝統・文化

静岡県浜松市天竜区石神に正法寺というお寺があります。
正法寺の境内にある芳光堂は、旧石神小学校にあった奉安殿を移設し再生した建物です。
その歴史には、戦争の影響を受けた時代の中で地域住民が見せた知恵と行動力が色濃く刻まれています。

日本は古くから、国家運営において権力と権威を分け、それぞれを調和させて統治を行ってきました。
奉安殿は、その権威を象徴するものとして、昭和時代の学校や公共施設に設置され、天皇・皇后の御真影や教育勅語が安置されていました。
これらは当時の国民にとって尊い存在であり、学校教育においても重要な役割を果たしていました。

しかし、第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は日本の戦前の体制を変革する政策を進め、全国に奉安殿の引き上げを指示しました。
旧石神小学校にあった奉安殿もその対象となりましたが、この状況をいち早く察知した静岡県の有力者が石神小学校の校長に情報を伝えます。
正式な命令が届く前、校長は地域の象徴を守るため、村に残る中学生に奉安殿の解体と清掃を命じました。
この中学生は器用で頭の良い人物であり、すぐに小学生2人を呼び、自ら指揮を執って作業を開始しました。
柱や瓦を一つひとつ丁寧に磨き、正法寺の納屋に保管する作業はわずか2日間で完了しました。
正式な引き上げ命令を受けて小学校を訪れた役人は、奉安殿がすでに存在しないことを確認し、報告を済ませました。

その後、戦後復興の中で奉安殿は「芳光堂」として再建され、地域の戦没者慰霊舎として新たな役割を担うこととなりました。
現在でも芳光堂は地域の方々に大切に守られています。
毎年の慰霊祭やお盆、お正月には多くの人々がお供え物を持参し、戦没者への感謝と祈りを捧げています。

芳光堂の物語は、戦争の混乱期において知恵と行動を発揮し、地域の大切な象徴を守り抜いた住民の努力を語り継いでいます。
それは単なる建物を超えた存在であり、戦争の記憶を継承し、未来への希望をつなぐ地域の宝となっています。

今回、私たちはこの芳光堂を地域の慰霊堂としてgoogle mapに掲載依頼していたのですが、無事承認の運びとなりました。

芳光堂 · 浜松市, 静岡県