自衛隊による島嶼防衛の備え

おおすみ型輸送艦 安全保障

政府は、令和4年12月に「国家防衛戦略」を策定しました。
これは従前の「防衛計画の大綱」に代わるもので、戦後の防衛政策の大きな転換点であり、中長期的な防衛力強化の方向性と内容を示すものと位置づけられています。
同時に策定された「防衛力整備計画」では、防衛力の抜本的強化に当たって重視する7主要事業の一つとして機動展開能力・国民保護を挙げました。

島嶼部への侵攻阻止に必要な部隊等を南西地域に迅速かつ確実に輸送するため、輸送船舶(中型級船舶(LSV)、小型級船舶(LCU)及び機動舟艇)、輸送機(C-2)、空中給油・輸送機(KC-46A等)、輸送・多用途ヘリコプター(CH-47J/JA、UH-2)等の各種輸送アセットの取得を推進する。また、海上輸送力を補完するため、車両及びコンテナの大量輸送に特化した民間資金等活用事業(PFI)船舶を確保する。 南西地域への輸送における自己完結性を高めるため、輸送車両(コンテナトレーラー)及び荷役器材(大型クレーン、大型フォークリフト等)を取得する。また、港湾規模に制約のある島嶼部への輸送の効率性を高めるため、揚陸支援システムの研究開発を進める。同時に、輸送を必要とする補給品の南西地域への備蓄により、輸送所要を軽減する取組を講じる。 また、自衛隊の機動展開や国民保護の実効性を高めるために、平素から各種アセット等の運用を適切に行えるよう、政府全体として、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する施策に取り組むとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として使用するために必要な措置を講じる。さらに、自衛隊の機動展開のための民間船舶・航空機の利用の拡大について関係機関等との連携を深めるとともに、当該船舶・航空機に加え自衛隊の各種輸送アセットも利用した国民保護措置を計画的に行えるよう調整・協力する。

防衛力整備計画より

機動展開能力・国民保護事業のため、防衛省は令和9年度までの5年間で約2兆円の事業費を計上しています。うち、令和6年度の1年間では、前年度の2倍を超える5,653億円を予算計上しています。

主要事項概要経費
輸送体制の強化南西地域への機動展開能力向上のため
自衛隊海上輸送群(仮称)の新編
輸送アセットの取得推進機動舟艇の取得(3隻)
自衛隊海上輸送群(仮称)に配備予定
173億円
輸送ヘリ等の取得
・CH-47JA(12機)
・CH-47J(5機)
・UH-2(16機)
3,550億円
民間輸送力活用事業令和7年12月に現PFI船舶の契約が満了
新たに2隻のPFI船舶を確保
305億円
PFI船舶を使用した部隊・装備品等の
輸送訓練、港湾入港検証の実施
10億円
令和6年度予算案の概要より

防衛省・自衛隊はこれまでも南西地域の防衛体制の強化を進めており、南西地域への駐屯地を新設し高射部隊や地対艦ミサイル部隊を配置してきました。さらに、平成30年には陸上自衛隊に水陸機動団が創設。水陸機動団は、島嶼を占領された場合に上陸・奪回するための水陸両用作戦を行うことを任務とする部隊です。今月21日には3つ目の連隊が長崎県の竹松駐屯地に配備完了しました。

令和5年度防衛白書より

島嶼部への攻撃に対しては、海上・航空優勢を確保しつつ、侵攻部隊の接近・上陸を阻止するために部隊を迅速に機動展開させる必要があります。その際、全国各地から島嶼部へ陸自部隊や装備品を継続的に輸送する必要があり、航空機による輸送に適さない重装備品や大量の物資等を輸送する海上輸送力の強化が求められています。
現在、自衛隊の人員・装備を輸送可能な艦艇は、海上自衛隊のおおすみ型輸送艦3隻と小型揚陸艇が1隻のみです。

こうした現状を踏まえ、本年度末に新編される「自衛隊海上輸送群」(仮称)は、陸海空共同の部隊であり、海上自衛隊呉基地に司令部が置かれます。海上輸送群は、令和9年度末までに中級型船舶(LSV)2隻、小型級船舶(LCU)4隻、機動舟艇4隻の計10隻を取得する計画です。
中型級船舶(LSV)は、本土と島嶼部間の輸送ができる大きさで搭載重量2,000t程度のものが想定され、小型級船舶(LCU)は、喫水の浅い島嶼部港湾に輸送できる大きさで搭載重量数百t程度のものが想定されています。機動舟艇は、全長約35m、搭載重量約60t程度のものを整備・取得する計画です。

部隊の新編、新たな装備品の取得、それらに付随する防衛関係費の増大が注目されがちな情勢ですが、その一方で自衛隊の人材の不足は深刻であり、大きな課題です。
防衛省は人的基盤の強化として、採用強化や生活・勤務環境の改善、処遇の向上等を打ち出しています。武田信玄が詠んだように「人は城、人は石垣、人は堀」なのです。装備の拡充と同時に、人的基盤の強化のためのさらなる具体策が求められているのではないでしょうか。