令和6年3月12日、ウェビナー形式による国家防衛勉強会を開催しました。
本勉強会は、日本を良くするためには、世に氾濫する情報を正しく活用しなければならないという考えの下、そのために必要な思考法と知識を獲得することを目的としており、現職自衛官から全6回の講義を受けます。
第1回勉強会のテーマは「戦略の基礎」でした。
講師は、航空自衛隊で教官を務めておられる現職自衛官の小林さんです。
このような機会は滅多にないため、北海道のとかち会の皆さまにもお声がけをし、共に学びました。
先生の簡単な自己紹介の後、早速講義が始まります。
ランチェスターの法則
「戦略の基礎」がテーマの今回の講義は主に「ランチェスターの法則」についてでした。
ランチェスターという言葉は、経営戦略などと一緒に語られることが多いですが、実はこれは、イギリスの航空機エンジニアだったフレデリック・ウィリアム・ランチェスターによって1914年に提唱されたものです。
1914年とはどんな年かと言えば、第1次世界大戦が起きた年で、この戦争で初めて飛行機が投入されたのでした。
すなわち、ランチェスターの法則とは戦闘における兵員の生存確率を数理モデルによって記述したものです。
ランチェスターの法則には第1次法則と第2次法則がありますが、第2次法則では、兵力に武器の性能を掛けた数字をそれぞれに二乗した数字をその部隊の戦闘力としています。
従って、近代戦においては武器の性能が同じなら兵力に勝る側が圧倒的に勝ち、兵力に勝る側は増員すればさらに少ない被害で勝つことができるとするものです。
では、兵力に劣る側が勝つためにはどうすればよいのか。
それは次の2点にあると言います。
①武器の性能(個人の戦闘力)を上げる。
自衛隊の訓練では、ここに重点を置いているそうです。
②広域戦ではなく局地戦、接近戦に持ち込む。
空間が狭いと兵力を展開できないため。
日中の軍事費の比較
日中の軍事費について、日本はこの30年間ほぼ横ばいであるのに対し、中国は、1988年頃から軍事費を増やしてきており、2020年には日本の5倍を超えるまでに増大しています。
(出典=SIPRI Military Expenditure Database)
中国の戦闘機3,000機に対して日本は300機。
中国は日本の10倍の兵力を持っており、日本はすでに中国とは広域戦を戦えないまでに追い詰められているというのです。
空自の戦闘機パイロットの技能は世界一と言われていますが、日本は戦闘機の性能の面で遅れを取っています。
日本は他国と軍事協力をしながら、中国に対峙するしか方法はありません。
幸いにも中国はインドや東南アジア、表面上は仲の良いロシアとの多方面作戦を強いられており、そのような環境にも救われながら、現在、日本はイギリス、イタリアと共にF3戦闘機を共同開発しています。
今後、日本は遅れている宇宙開発にも力を入れていかねばなりませんが、現状の少数戦力でも勝てる戦略を取る必要があります。
そのために必要なのは次の4点です。
1.情報収集と分析
独自の視点で情報を分析し、自分が勝てるところを探す。
織田信長が今川義元を破った桶狭間の戦いが、これでした。
戦力では圧倒されていた織田信長が勝利したのは、あらかじめ今川義元の本陣が置かれていた場所を把握し、相手が手薄になった隙をついて一気にその周辺に攻撃を仕掛けることができたためです。
織田信長は、大将の首を討ち取った家来より、その情報をもたらした方に多くの褒美を与えたと言われています。
情報収集と分析は結果を大きく左右する重大な要素なのです。
情報に対してデータという言葉がありますが、二つの違いは以下に示されます。
・データ 観測された事実や数値の羅列
・情報 データを意思決定のために収集・加工したもの
情報はさらに定量情報と定性情報に分かれます。
定量情報とは数値によって計測や集計、分析可能な情報のことを言い、定性情報とはなるべく対象に接近して獲得する数字で表すことのできない情報のことを言います。
2.一点集中主義
勝てるところでは戦力を集中させ必ず圧倒する。
ガダルカナルの戦いで、日本軍は半年間の消耗戦の末に戦力のほとんどを失い敗退しました。
また、海上輸送能力に大打撃を受け、戦争の継続が困難になりました。
この敗因の大きな理由が、保有している兵力を広範囲に拡散し、しかも逐次投入したことでした。
勝負どころでは兵力を分散化してはならないというのが、この戦いでの最大の教訓です。
大兵力を持っている場合、さらに兵力を増やせばより少ない損害で相手を圧倒できます。
勝てることろで勝って、圧倒的な勝利を積み重ねることが大切になります。
3.差別化と同化
上位の相手には差別化で対抗し、下位の相手には同化で叩く。
自分より兵力に勝る上位の相手に対しては、同じことをしていては勝てないため、差別化を図る必要があります。
これのビジネスでの成功例が、Asahiの缶コーヒー「WANDA」です。
WANDAは1997年に発売を開始しました。
この時に最も飲まれていた缶コーヒーは日本コカ・コーラの「GEORGIA」でしたが、発売にあたり、Asahiはマーケティング調査をして次のことを掴みます。
①缶コーヒーが最も飲まれている時間帯は午前7時から9時。
②そのうちの80%は男性。
③その男性のうちの80%は30代以上。
この情報からAsahiは朝専用のコーヒーとして「WANDA モーニングショット」を売り出し、この狙いは見事に当たって驚異的な売上を記録したのです。
なお、負けた側は対策としての同化作戦を取る必要があります。
自分の兵力の方が大きい場合は相手と同じことをしても兵力差で勝てるのです。
4.エリア・ドミナンス
一時の勝利に意味はなし。点と戦を面に転化し、占領を確実にする。
差別化や奇襲、新しい方法で局地戦に勝利したとしても、兵力に勝る相手に同じことをされると負けてしまいます。
占有率41.7%が安定目標値と言われ、ノルマンディー上陸作戦やドイツ軍のフランス侵攻が、この成功例と言われています。
ビジネスの世界では、集中出店方式がこれにあたります。
ある程度売上のある地域に集中して出店するのです。
他の地域に進出するのが遅れる、また一店舗当たりの売上が頭打ちとなると言った短所はあるものの、その地域でのシェアをほとんど占めることができるようになります。
これに対し、分散出店方式というのがあります。
長所としては、すでに強大なライバルや老舗がいる場合でも有効だということが挙げられます。
一方で、短所として、地域の選定や経営戦略が複雑であること、また全体での成果を上げるのに時間がかかること、さらには各個撃破されやすいとうことがあります。
最後に、受講者から核武装に関する質問も出ましたが、核ミサイルは局地戦では使用できず、アメリカの許可も必要であり、その保有は今の自衛隊には現実的ではないという回答でした。
また、最後の論点のエリア・ドミナンスについて、別の角度から、我が国は同盟を結ぶアメリカに完全に支配されているが、この支配を断ち切るにはどうすればよいのか考えていきたい、という意見も出されました。
90分にわたる内容でしたが、講師の先生の説明が非常に分かりやすく、大変有意義であると共に、深く考えさせられる勉強会でした。
次回以降も真剣に学んでいきたいと思います。