庚申さま

伝承・伝統・文化

「庚申さま(こうしんさま)」をご存知でしょうか?

道教を起源としていて、平安時代に日本に伝来し室町時代から全国に広まった民間信仰です。現在では行われる地域も減少し規模も小さくなってきているようですが、60日に一度、庚申(かのえさる)の日に、持ち回りで集落の人たちが集まり、飲食を共にして、親睦、コミュニケーションを図る場として引き継がれています。これを町おこしの起爆剤にしようと奮闘されている方もおられるようです。

今はそうでもないようですが、昔は夜を徹して語り明かしていたようです。
夜を徹してというには理由があって、言い伝えによると人のお腹の中には「三尸(さんし)の虫」というものがいて、干支が「庚申」となる日の夜に人々が寝静まると体から抜けだし、その人が行った悪事を天帝 (てんてい:宇宙を支配する神)に告げにいくのだそうです。
そして、天帝が天の邪鬼(じゃき:たたりをする神)に命じると罰が与えられるので、皆、三尸の虫が抜け出さないように寝ずにお参りをする必要があったのです。

お参りの作法の一例ですが「庚申さま」と呼ばれている「青面金剛明王(しょめんこんごうみょうおう)」に向かって、「おんこうしんれいこうしんれい まいたれや そわか」これを21回繰り返します。
食事の前は、前記のお椀に山盛りにご飯を盛って、部屋を暗くして、お椀を頭の上に一度上げ、お米に感謝して、一人一人がご飯を、一つのお椀を回して一口づつ食べます。
年上の方から始め、最後に当番の家長が食べます。途中、若い者はご飯を沢山食べるように年寄りから言われます。

民間信仰ということもあってか、かなりおおらかなものだったようで、仏教(特に密教)・神道・修験道・呪術的な医学や、日本の民間のさまざまな信仰(民間信仰)や習俗などが複雑に絡み合った複合信仰で、民間以外に神社や寺でも行われています。

そもそもの由来となった道教自体、老子や荘子の道家の思想(老荘思想)を中核として、神仙思想、易および陰陽五行説、讖緯説などが融合した宗教ですから、それも当然なのかもしれません。

これが庚申信仰のあらましですが、夜明かしで宴会をするためにもっともらしい理由付けをしていたという見方もあります。ただ夜遊びするのではなく由緒正しい信仰や思想が背景にあって、とかもっともらしい理由付けがあるとおおっぴらに夜遊びできるという…。宴会ではありませんが、枕草子には庚申の夜の徹夜歌会での出来事が微笑ましく綴られています。

これは現代にも通じるところがあって、例えばハロウィンは西洋ケルト文化の風習や収穫祭とキリスト教が結びついたものということも知らず、夜通しバカ騒ぎするための口実になっています。クリスマスだってペルシャの太陽信仰、ローマ帝国の土着信仰などにキリスト教を統合させたもののようですが、ほとんど知られていません。

大本となる指導者がいなかったにも関わらず、地域に根付いて長い間継続してきたのは、そんな「お楽しみ」という側面があったからだとも思いますし、日本人が日々の生活の中で信仰を前面にださず、慣習として残すという宗教との向き合い方が表れているのだと感じました。