七十二候の第五候、雨水の次候「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」は、2月24日~28日頃にあたります。
この時期になると、雪や霰(あられ)が雨に変わり、積もった雪も解け始めます。
湿った空気と陽光が織りなす幻想的な霞は、春の訪れを優しく告げてくれます。
「霞」は、水蒸気や塵埃などが空気中に浮遊して視界がかすむ現象を指します。
春霞は、冬の寒さで乾燥していた大地が、春の雨によって潤い、水蒸気が発生することで起こります。
また、春風に運ばれてきた黄砂や花粉も霞の原因となります。
朝靄(あさもや)のように薄く立ち込める霞は、幻想的な雰囲気を醸し出す一方、太陽の光を反射して金色に輝く霞は、春の陽気を感じさせてくれます。
また、霞によって遠景がぼやけることで、風景画のような趣きが生まれることもあります。
古くから、霞は文学や芸術作品にも多く描かれてきました。
例えば、平安時代の歌人・在原業平は次のような歌を詠みました。
春のきる 霞の衣ぬきを うすみ山かぜにこそ みだるべらなれ
(春の女神の霞の衣は、横糸が弱いので山風に乱れるようだ)
『古今集』
「朝霞」「有明霞」「薄霞」「霞の海」など、霞を用いた春の季語は大変多く、春に漂う霞のはかなさは、はるか昔の日本の人々の心をとらえていたことがとてもよく伝わります。
ちなみに霞と似た言葉に「朧(おぼろ)」という言葉があります。
皆さまはこの言葉の違いをご存知でしょうか。
実は、景色がぼんやりと霞む状態を、昼間は『霞』といい、夜は『朧(おぼろ)』と呼ぶのだそうです。
同じ現象を昼と夜で使い分ける・・・日本語は実に奥深いですね。